今回は「市街化調整区域内にある不動産売却」について、できるだけ分かりやすく説明していきます。
1. 市街化調整区域とは?
まず、市街化調整区域とは「市街化を抑制すべき区域」と定義されています。簡単に言うと、
- 新しい住宅や商業施設を建てるのが難しい地域
- 基本的に田んぼや畑、森林などの自然を守ることを目的とした地域
という特徴があります。
市街地のようにどんどん開発されていくエリアとは違い、住宅が増えすぎないようにするために厳しい制限がかかっているエリアです。
そのため、不動産の売買や活用が一般的な市街地よりも難しいという特徴があります。
また、都市計画法によって、市街化調整区域内では原則として建物の建設が禁止されています。
ただし、特定の条件を満たせば建築が許可される場合もあります。
市街化調整区域は、主に以下の目的で設定されています。
- 都市の無秩序な拡大を防ぐため
- 農地や森林などの自然環境を保全するため
- 将来的な都市計画に備えて土地を維持するため
このような目的のため、市街化調整区域内の土地は通常の市街地とは異なるルールで管理されています。
2. 市街化調整区域の特徴
この区域にある土地や建物を売却するのが難しい理由をいくつか紹介します。
① インフラ(電気・ガス・水道)が整っていない
都市ガスや公共の上下水道が通っていないことが多く、井戸水やプロパンガスを使っているケースもあります。
そのため、新しく家を建てたり住む場合は追加の工事が必要になり、費用がかかります。
さらに、電気についても地域によっては供給が不安定な場合があり、大規模な工事が必要となることもあります。
水道設備のない地域では、井戸を掘る工事や浄化槽の設置が必要になることもあります。
② 生活に必要な施設が少ない
スーパーや病院、学校、娯楽施設(映画館やショッピングモール)などがほとんどなく、日常生活が不便になりがちです。
また、最寄りの商業施設まで車で数十分かかることもあり、公共交通機関がほとんど整備されていないケースが多いため、車が必須となることが多いです。
特に高齢者にとっては生活のしにくい環境となります。
③ 農家の方々が多く住んでいるエリア
家と家の間が数百メートルも離れていることが普通で、周囲には田んぼや畑が広がっています。
一般的な住宅地とは違い、農業を営む方が中心に住んでいる地域です。
また、農作業の騒音や農薬散布の影響など、都市部に住んでいた人には馴染みのない環境になるため、購入希望者が限定されやすいです。
④ 一般の人は建物を自由に建て替えられない
市街化調整区域では、家を建てたり増改築するには自治体の許可が必要です。許可が取れなければ建て直しができません。
リフォーム程度なら問題ない場合もありますが、自治体のルールによります。
特に、農地転用を伴う建築は厳しく制限されており、転用許可が下りる条件も限られています。
事前に自治体に相談し、建築の可否を確認することが重要です。
⑤ 農家の方は許可なしで建築可能
農業を営んでいる方であれば、特別な許可なしで建築が可能です。
農業を目的とした住居や倉庫などが建てられます。
⑥ 立地基準を満たせば建築可能な場合もある
市街化区域(開発が進んでいるエリア)から2km以内にあり、50棟以上の建物が連なっている場合など、一部の条件を満たせば建築が可能なケースもあります。
ただし、この基準を満たしているかどうかは自治体によって異なり、具体的な条件の確認が必要です。
⑦ 住宅ローンが利用できないことが多い
市街化調整区域の物件を購入しようとする場合、ほとんどの金融機関は住宅ローンを貸し出しません。
現金購入が基本となり、買い手が見つかりにくくなります。
そのため、売却する場合は現金購入可能な買い手をターゲットにするか、事業用のローンが利用できる法人や事業者に販売する戦略を取ることも考えられます。
これらの特徴を考慮し、市街化調整区域の不動産を売却する際は、購入者のターゲットを明確にし、適切な活用方法を提案することが重要になります。
3. 市街化調整区域内の土地活用の方法
市街化調整区域の土地は、自由に活用できるわけではありませんが、以下のような使い道があります。
- 農地として活用(そのまま田んぼ・畑として使用)
- 駐車場として貸し出す
- 資材置き場として活用する
- 墓地として使用する
- 医療施設(病院やクリニック)用に貸し出す
- 福祉施設(老人ホームや障がい者支援施設)用に貸し出す
- キャンプ場やアウトドア施設として開発する(自治体の許可が必要)
- 太陽光発電施設の用地として貸し出す(再生可能エネルギー事業者向け)
- 倉庫・物流施設として活用する(事業者向けの貸し出しが可能)
- ドッグランや乗馬施設として活用する(広い敷地を活かした施設運営が可能)
- 地域の防災施設として自治体に貸し出す(防災倉庫や避難所としての活用)
また、自治体によっては、空き家・空き地の活用を支援する補助金制度を設けているところもあります。
たとえば、解体費用の一部補助や、農地の活用支援策、特定の用途での開発許可を取りやすくする制度などがあります。
こうした支援制度を活用することで、より有効な土地利用が可能になります。
事前に自治体に問い合わせたり、専門の不動産会社に相談することで、最適な活用方法を見つけることができます。
市街化調整区域内の土地活用事例:太陽光発電施設の用地としての活用
市街化調整区域の土地活用の中で、近年注目されているのが「太陽光発電施設の設置」です。
市街化調整区域は一般的な住宅や商業施設の建設が難しい一方で、土地を活用できる方法の一つとして、太陽光発電事業が挙げられます。
1. 太陽光発電用地としてのメリット
✅ 住宅・商業施設建設が制限される土地でも活用できる
- 市街化調整区域内では住宅や店舗の建設が制限されているが、太陽光発電設備は設置しやすい。
- 事業用地として活用することで、遊休地のままにするよりも収益化が可能。
✅ 安定した賃貸収入が期待できる
- 土地の所有者が太陽光発電事業者に貸し出すことで、長期間にわたって安定した賃料収入を得られる。
- 太陽光発電事業は20年以上の長期契約が一般的で、長期的な資産活用につながる。
✅ 環境保全・地域貢献につながる
- 再生可能エネルギーの導入を進める政府や自治体の支援が得られやすい。
- 近年はカーボンニュートラル(脱炭素)政策の推進により、企業や自治体が積極的に再生可能エネルギーの導入を進めている。
2. 太陽光発電事業の進め方(活用までの流れ)
- 土地の条件を確認
- まず、所有している土地が太陽光発電に適しているかどうかを確認。
- 必要な条件として、
- 日当たりが良いか
- 広い平坦地または傾斜が緩やかであるか
- 送電線への接続が可能か
- 近隣住民や自治体の規制に適合するか などがある。
- 自治体の規制を確認
- 市街化調整区域であっても、自治体によっては「再生可能エネルギー導入促進区域」に指定されていることがある。
- 事前に自治体に相談し、太陽光発電施設の設置許可が得られるかどうかを確認。
- 太陽光発電事業者と契約
- 土地所有者が太陽光発電事業者と賃貸契約を結ぶことで、発電所の設置が進む。
- 賃貸契約の内容としては、
- 契約期間:20年以上が一般的
- 賃料:年間○○万円~(土地の条件による)
- 土地の維持管理は事業者が行うケースが多い などの条件が設定される。
- 太陽光発電施設の設置・運用開始
- 設置工事が完了すると、発電が開始され、発電された電力は電力会社に売電される。
- 土地所有者は、長期間にわたって賃貸収入を得ることができる。
3. 太陽光発電用地として活用する際の注意点
✅ 自治体の許可が必要
- 市街化調整区域内での太陽光発電設置には、自治体の都市計画法の制約を確認する必要がある。
- 許可を得るための手続きや事前協議が必要な場合もある。
✅ 近隣住民とのトラブルに注意
- 太陽光パネルの反射光が近隣住民に影響を与えるケースがあるため、事前の説明や合意形成が重要。
- 騒音(パワーコンディショナーの音)や景観の問題なども考慮する。
✅ 契約内容の確認
- 賃貸契約は長期間に及ぶため、賃料の支払い条件や、契約終了後の設備撤去費用の負担者について明確にしておく。
✅ 土地の固定資産税の変化
- 土地の用途が変わると、固定資産税の評価額が変わる可能性があるため、税金の増減を事前に確認しておく。
4. 市街化調整区域内の不動産売却のポイント
「売却が難しい」と言われる市街化調整区域の不動産ですが、売るための工夫をすれば、買い手が見つかる可能性はあります。
① 市街化調整区域の不動産売却に強い不動産会社に相談する
通常の不動産会社では、市街化調整区域の物件に詳しくない場合があります。
経験豊富な不動産会社を選ぶことが成功のカギになります。
また、市街化調整区域の売却実績がある会社は、売却ルートや販売戦略のノウハウを持っているため、スムーズな取引が期待できます。
② 価格設定を適正にする
市街地と比べて売却価格が低くなりやすいため、相場に合った価格設定をすることが重要です。
高すぎると売れず、時間がかかってしまう可能性があります。市場のニーズを考慮し、適正な価格で売り出すことが大切です。
また、売却期間の目安を決め、売れない場合は段階的に価格を調整することも効果的です。
③ 売却ターゲットを明確にする
- 農業を始めたい人(新規就農者や、農地を拡大したい農家)
- 資材置き場や倉庫を必要としている事業者(建築業や製造業など)
- アウトドア施設やキャンプ場を開きたい人(観光業やレジャー事業者)
- 現金購入が可能な投資家(不動産投資目的の個人・法人)
- 法人向けの事業用地として活用したい企業(工場用地や物流拠点としての利用)
ターゲットに合わせて広告戦略を工夫することで、よりスムーズな売却が可能になります。
また、インターネットを活用した情報発信(不動産ポータルサイトやSNS)も、買い手を見つける手段として有効です。
5. まとめ
市街化調整区域内の不動産は、売却や活用が難しい一方で、決して売れないわけではありません。
- スローライフを楽しみたい人、農業を始めたい人などに一定のニーズがある
- 現金購入できる投資家に売却できる可能性がある
- 自治体の補助金制度を活用すれば活用の幅が広がる
- 売却が難しいからといって放置せず、早めに対策を取ることが大切
- 売却だけでなく、賃貸や土地活用の選択肢も検討する
市街化調整区域の不動産を売却する場合は、専門の不動産会社に相談し、適切なターゲットに向けた売却戦略を立てることが大切です。
もし市街化調整区域内の不動産売却を検討している場合は、一度プロのアドバイスを受けることをおすすめします!