「オーナーチェンジ物件」とは、入居者がいる状態で売却される賃貸物件です。
売主にとっては物件を現状のままで売却できるので、入居者の立ち退き請求などが必要ないというメリットがあります。
しかし、入居者の数や利回りなどの「収益力」が乏しいと、購入希望者がなかなか現れず、価格も低くなる恐れがあります。
オーナーチェンジ物件の売却を成功させる方法
オーナーチェンジ物件の売却は、多くの入居者に契約を更新してもらったり、新しい入居者を見つけることが重要です。安定して家賃収入が得られる物件であれば、収益物件として高く評価されるでしょう。
このような物件は、投資家やオーナーなどからの人気が高くなるため買主が見つかりやすい傾向にあります。
では、具体的にどのような工夫をすれば、契約の更新や新しい入居者の集客が可能となり、オーナーチェンジ物件の売却を成功させることができるのでしょうか。その方法は主に3つあり、以下の通りです。
◻︎更新料を無料にする
契約の更新期間が迫っている入居者がいる場合、更新料を無料にして住み続けてもらえるような対策をするとよいでしょう。
オーナーチェンジ物件を購入する買主にとって最大の不安要素は、入居者が退去してしまい家賃収入が得られないことです。
売却前に入居者の契約更新を確約させることで、オーナーチェンジ物件の購入を前向きに検討してくれる買主が見つかるかもしれません。
賃貸物件に関する更新手続きの通知は、通常1~3カ月前に郵送します。更新期間が近づいている入居者には「更新料を無料にする」という内容を早めに通知しておきましょう。
◻︎集客力のある仲介業者に変更する
賃貸物件の空室にはさまざまな原因が考えられますが、その一つとして仲介業者の集客に問題があるケースが考えられます。
入居者の募集を仲介業者に委託しており空室状況が改善されないようであれば、別の仲介業者に変更する必要があるかもしれません。
集客力のある仲介業者を見極めるには、「接客の対応が丁寧であり、顧客目線を持っている」「宣伝広告がわかりやすく作成されている」などのポイントを見るとよいでしょう。
顧客に寄り添った環境や細やかな配慮がある仲介業者は、顧客を満足させることができるため集客力が高いといえます。
◻︎家賃や敷金・礼金を見直す
仲介業者を変更すること以外に、家賃や敷金・礼金の金額を見直す必要もあるかもしれません。
入居者が賃貸物件を選ぶうえで重視している条件のひとつに「賃料の安さ」があります。また、入居時にかかる初期費用を抑えたいという人は、敷金・礼金が0円の賃貸物件を選ぶ傾向にあります。
そのため、入居率を改善する方法のひとつとして、家賃を下げて敷金・礼金をなしにすることも検討してみるとよいでしょう。
ただし、賃料を安くすると同時に賃貸物件の利回りも悪くなってしまうため、収益物件としての評価が下がってしまうケースも考えられます。
家賃や敷金・礼金の金額を見直す際は、入居率と利回りのバランスに注意しましょう。
オーナーチェンジ物件を売却するときの注意点
オーナーチェンジ物件を売却する際に、いくつか注意しておくべき点があります。それが以下の通りです。
- 相場よりも査定価格が低い傾向にある
- 高い利回りでも入居率が低いと売れ残る可能性がある
- 住宅用に購入予定の買主は避けるべき
次の項目から、それぞれの注意点について解説をしていきます。
通常物件よりも査定価格が低い傾向にある
オーナーチェンジ物件などの収益物件は収益を生み出す力(収益力)に基づいて査定されます。このように、物件が将来生み出すと予想される収益で価値を決める方法を「収益還元法」といいます。
入居率や利益率などによって収益力が低いと判断されると査定価格も低くなってしまいます。
また、物件を売却するターゲットも投資家やオーナーなどに限られてしまい、物件のニーズが狭まってしまうことも理由のひとつだと考えられます。
いずれにしろ、オーナーチェンジ物件は通常物件より売却価格が下がりやすく、おおむね10%減になるケースが多いようです。
売り出し価格の設定基準
オーナーチェンジ物件の売却価格、以下のような設定基準があります。
- 直接還元法
- DCF法
これらは、不動産会社の査定でも使われる方法です。それぞれ詳しく解説します。
1.直接還元法
1つ目は、賃貸経営で得られる収益と利回りから売却価格を算出する「直接還元法」です。
直接還元法では、オーナーチェンジ物件の売却価格を以下の計算式で計算できます。
直接還元法の計算式
売却価格 = 1年間の純収益 ÷ 還元利回り
「純収益」とは、賃貸収入から経費を引いた、純粋な利益のことです。
「還元利回り」とは、その賃貸物件で得られる投資利回りを意味します。
わかりやすいように具体例でみてみましょう。
・1年間の収益:100万円
・経費:30万円
・還元利回り:5%
このような賃貸物件の場合、次のような計算式になります。
・(100万円–30万円)÷0.05=1,400万円
2.DCF法
2つ目は、今後得られる収益・売却価格を現在の価値に換算して計算する「DCF法」です。
DCFとは「Discounted Cash Flow」の略称で、直訳すると「値引きされたキャッシュフロー」という意味になります。
DCF法では、直接還元法で想定されない空室リスクや家賃の下落率も考慮して算出するため、より正確な売却価格を予想可能です。
DCF法の計算式
・年間収益÷(1+割引率)+年間収益÷(1+割引率)の2乗+・・・+年間収益÷(1+割引率)のn乗
・売却価格=上記の結果+物件保有終了時の不動産売却価格÷(1+割引率)のn乗
nは物件の保有年数で、保有年数が5年の場合、5乗で計算は終わります。
ただし、DCF法は計算方法が複雑で、素人には難しいため、不動産会社などの専門家に計算を依頼することをおすすめします。
利回りが良くても、差別化のポイントがないと売れない可能性も
投資用の不動産物件においては、「利回りの高さ=売れやすさ」とはいえません。
例えば、利回りが高くても、瑕疵物件や地方の物件は入居需要が少ないので入居率の維持が難しくなります。中長期的な投資が目的の買主様からは、購入を躊躇されることもあるでしょう。
売却の可能性を高めるには、競合物件にない以下のような「差別化ポイント」をアピールすることが大切です。
- 駅近
- ペット可
- 室内リフォームずみ
- インターネット無料
一方、利回りが低い物件については、入居率を維持できる以下のような要素があれば大きなアピールポイントとなります。
- 競合物件にない差別化ポイントがある
- 入居率の高さに実績がある管理会社に管理を依頼している
- 物件の管理が行きわたっており、入居者からの信頼が厚い
なお、マンションの実質利回りの算定方法は、以下のとおりです。
実質利回り(%) =(年間の家賃収入 - 年間経費)÷ 物件価格 × 100
居住用マンションとして購入を希望する買主様は避けるのが無難
オーナーチェンジを想定したマンション売却でも、居住用マンションとしての購入を検討する買主様が現れる場合もあります。
一般的に、オーナーチェンジでのマンション売却では、以下の理由から居住目的の買主様は避けたほうが無難だといわれています。
内見の手配や交渉などに手間がかかるものの、成約の可能性は低いから
オーナーチェンジ物件を買主様の居住用マンションとして売却することになれば、現在の入居者が退居する必要が出てきます。しかし、売主様は基本的に、現在の入居者を強制的に退居させることはできません。
「売却のタイミング」で「現在の入居者が契約更新の時期を迎え」、かつ「退居を希望する」など、特定の条件が重ならないかぎり、売却後、スムーズに買主様が入居することは難しいと覚えておきましょう。
たとえマンション売却後すぐに買主様が入居できるとしても、現在の入居者が退居前の内見に応じてくれるケースは稀といえます。
このように入居者・買主様との交渉や内見の手配にかかる負担を考えると、オーナーチェンジ物件を居住用マンションとして売却する選択はおすすめできません。
低金利の住宅ローンを組むことができないから
オーナーチェンジ物件を居住用マンションとして購入する場合、買主様は低金利の住宅ローンを利用できず、最終的に購入を断念するケースがあります。
住宅ローンは居住用の住宅を購入することを目的に低い金利が設定されているため、収益物件とみなされるオーナーチェンジ物件の購入には利用できません。
オーナーチェンジ物件の購入でローンの借入れが必要な場合、おもに「不動産投資ローン」を利用しますが、住宅ローンとは金利に大きな差があります。
一般的な住宅ローン金利:0.5~2.0%
不動産投資用ローン金利:1.5~4.5%
また、上記2つのローンでは、返済期間の設定方法も異なります。
不動産投資用ローンでは、耐用年数に基づいた返済期間が設定されるため、築年数が古い物件ほど返済期間が短く、月々の返済額は高額となります。
オーナーチェンジ物件を居住用マンションとして売却することは不可能ではありませんが、双方のリスクや負担は大きくなります。もしも、居住用マンションの購入を検討する買主様が現れた場合は、不動産仲介会社と相談のうえ、リスクを回避する適切な対応を心がけましょう。
買取を利用してオーナーチェンジ物件を売却するメリット
オーナーチェンジ物件の売却では買取を利用する場合が多いですが、そもそも買取とはどのような売却方法なのかを確認しましょう。
マンションの売却方法には、仲介と買取の2種類があります。買取と仲介の比較
仲介 | 買取 | |
---|---|---|
買主 | 主に個人 | 不動産会社 |
売却期間 | 販売活動が必要なため時間がかかる | 不動産会社が直接買取るため早期売却が可能 |
売却価格 | 相場価格で売却しやすい | 相場価格よりも安くなりやすい |
費用 | 仲介手数料がかかる | 仲介手数料がかからない |
買取とは、不動産会社に直接マンションを買い取ってもらう売却方法です。
それに対し仲介とは、不動産会社が販売活動を行って買主を見つけて売却する方法です。
仲介では、通常3カ月程度販売活動が期間が必要です。
仲介での売却と買取の流れを踏まえた上で、買取を利用してオーナーチェンジをするメリットを見ていきましょう。
買取を利用してオーナーチェンジ物件を売却するメリットは以下の2つです。
買取を利用してオーナーチェンジ物件を売却するメリット
- 物件を素早く現金化できる
- 買い手が付きにくい物件でも売却しやすい
一番のメリットとしては、物件をすぐに売却できることです。
前述の通り、仲介は買い手を探す販売活動が行われるのに対し、買取は不動産会社が直接買い取ってくれるので、早期売却が可能になります。
また、不動産会社に買い取ってもらう場合、年数の経った築古物件のように仲介で買い手がつきにくい物件でも売却がしやすいです。
補修が必要な場合でも、買取を行う不動産会社が現状のまま引き取ってくれることがあります。
買取を利用してオーナーチェンジ物件を売却するデメリット
買取を利用したオーナーチェンジをした場合は、売買価格が相場よりも割安になりやすい点がデメリットになります。
自己居住用の一般的なマンションと比較すれば購入検討者が少ないため、仲介市場による取引価格と買取価格の差は小さい傾向にあります。
現行の賃料を相場より安く設定していた場合でも、オーナーが替わったからといって簡単に改定することはできません。
賃料増額には既存の入居者との交渉が必要になり、合意が得られにくいのが理由です。
そのため、物件が現行の利回りで評価されてしまうのです。
駅から近く、部屋が広いなど、自己居住用に適したマンションであっても投資用マンションとして利回りで評価されます。
所有者の都合で現在の入居者を退去させられないことや、部屋の状態の確認もできないため自分で住むことを目的に購入することが難しいからです。
まとめ
オーナーチェンジによるマンション売却は、通常のマンション売却と大体同じ手順で進められます。
ただし、オーナーチェンジ特有のいくつかの手順が必要になります。
これには、売却活動中にレントロールを使って、購入希望者に物件情報や現在の賃貸状態を伝えること、そして物件の引き渡し後に現在の入居者にオーナーが変わったことを伝えることが含まれます。これらのポイントを押さえて売却活動を進めると良いでしょう。
オーナーチェンジをスムーズに進行させたい場合は、不動産仲介会社の専門的な支援を受けることが重要です。