近年、日本各地で人口減少や住宅の老朽化、社会の変化により空き家が増えています。
適切に管理されていない空き家は、安全性の低下、衛生環境の悪化、景観の悪化など、多くの問題を引き起こし、地域住民の生活に悪影響を与えます。
今後も空き家が増えれば問題がさらに深刻化することが懸念されています。
また、空き家の所有者を特定することが難しい場合もあり、これらの問題に対する対策が求められています。
この背景から、平成27年5月に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行されました。
この法律では、空き家の所有者が自ら責任を持って管理することが基本原則とされています。
しかし、特定空き家(倒壊や衛生上のリスクが高い空き家)だけでなく、そうなる前の段階からの対策も必要です。
そのため、2023年6月に法律が改正され、「活用の拡大」、「管理の確保」、「特定空家等の除却等」の3つの柱で対策を強化することが決まりました。
富谷市空家等対策計画について
この計画は、法律第7条に基づく「空家等対策計画」として、国の基本方針に従って策定されています。
この計画は富谷市の総合計画を上位計画とし、基本構想や後期基本計画と一致させることで、市が進めるべき空家等対策を計画的に実施するための指針を示しています。
計画の策定や変更については、法律第8条に基づいて設置された「富谷市空家等対策協議会」で協議されます。
また、富谷市ではSDGs(持続可能な開発目標)の取り組みを強化しており、総合計画の施策にもSDGsの考え方を取り入れています。
これにより、「住み続けたい」「住んでみたい」と思えるまちづくりを目指し、市民と共に進めていく目標を分野ごとに設定しています。
特にSDGsの目標のうち、「目標11:住み続けられるまちづくり」と「目標17:パートナーシップで目標を達成しよう」を主な目標として計画を推進し、これらの目標達成に向けて空家等対策を行っていく姿勢です。
富谷市の空き家の現状と将来
富谷市の空き家や人口の現状と将来推計についてまとめています。
「住宅・土地統計調査」から見た空き家の現状
平成30年に総務省が行った住宅・土地統計調査によると、日本全体で住宅は6,240万戸あり、世帯数は5,400万世帯です。
これにより、住宅の供給は十分だと言えます。
しかし、その中で「空き家」は849万戸あり、全住宅の13.6%を占めています。
特に、「賃貸用や売却用の住宅」「二次的住宅」を除いた「その他の住宅」に分類される空き家は349万戸で、全住宅の5.6%に相当し、過去20年間で約1.9倍に増加しています。
富谷市では、平成30年時点で総住宅数は18,890戸、そのうち空き家は920戸で、空き家率は4.9%です。
特に「その他の住宅」とされる空き家は580戸で、全住宅の3.0%に相当します。
富谷市は仙台市に隣接しており、空き家が発生してもすぐに売却されることが多く、全国および宮城県の平均よりも空き家率は低い水準にあります。
しかし、「その他の住宅」の割合は平成25年から平成30年にかけて0.9ポイント増加しています。
国勢調査による総人口・世帯数・高齢者のみの世帯の推移
令和2年の国勢調査によれば、富谷市の総人口は増加していますが、65歳以上の高齢者の割合も増加しています。
平成12年には高齢者が総人口の9.2%を占めていましたが、令和2年には21.6%に増加しています。
また、世帯数も増加傾向にあり、高齢者がいる世帯も増えています。
特に、単身高齢者世帯は平成12年の8.4%から令和2年には18.8%に、高齢夫婦のみの世帯は13.9%から39.6%に増加しています。
このように高齢者の割合が増える中で、将来的に高齢者の死亡や施設への入所に伴い空き家が増えると考えられ、適切な対策が必要です。
空き家等に関する施策課題
富谷市における空き家問題は、多岐にわたる課題を抱えています。
以下では、現状の問題点を整理し、具体的な施策課題について解説します。
1. 空き家等の発生による周辺環境への影響
空き家が増加することにより、地域住民の生活環境に深刻な影響を与える問題があります。
具体的には以下のような問題があります。
- 安全上の問題: 老朽化した空き家が倒壊するリスクや、雨風で建築資材が飛散する危険があります。
- 生活・衛生上の問題: ごみの不法投棄や異臭、病害虫の発生、野良猫や小動物の繁殖による糞害などが発生します。また、草木が繁茂し、近隣住民や道路通行者に影響を与えることがあります。
- 防犯上の問題: 空き家は不法侵入や放火などの犯罪の温床となるリスクがあります。
- 景観上の問題: 草木が繁茂して景観が悪化し、地域のイメージが低下します。
- その他の問題: 居住者の減少により地域コミュニティの活力が低下し、地域全体の不動産価値が下がることがあります。
2. 空き家所有者の課題
空き家の所有者が直面する問題は以下の通りです。
- 心理的な問題:
- 高齢や病気のため、管理が難しくなっている。
- 管理を委託したいが、どこに頼めば良いか分からない、または費用が心配。
- 幼少期を過ごした実家なので、思い出があり処分しづらい。
- 家財道具の処分方法が分からない。
- 賃貸や売却をしたいが、その方法が分からない。
- 経済的な問題:
- 適正な管理や解体、改修にかかる費用を負担する余裕がない。
- 解体すると固定資産税が増加する(空き家を解体して更地にすると固定資産税が最大で6倍になる可能性がある)。
3. 空き家等対策の重要性
空き家問題に対処するためには、所有者が自らの責任で適切に管理することが求められます。
しかし、多くの所有者は管理方法や処分方法についての知識が不足しており、行政や関係機関(不動産業者など)との連携が必要です。
また、法律に基づく空き家対策計画の改定や、専門家で構成する協議会の設置も重要です。
富谷市の所有者による空き家の適切な管理の促進に関する事項
空き家の所有者の責任
空き家の問題を解消するためには、所有者が自らの責任で適切に管理することが重要です。
「空家等の所有者又は管理者は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努め、国や地方公共団体が実施する施策に協力するよう努めなければならない」と法第5条で定められています。
2023年12月13日の法律改正により、所有者は空き家対策施策への協力も求められるようになりました。
所有者による空き家の適切な管理の促進
富谷市では、空き家の所有者が適切に管理できるよう、以下の取り組みを実施しています。
情報冊子の作成と配布
富谷市と広告会社が協力して空き家情報冊子を毎年更新し、セミナーや市の窓口で配布します。
また、空き家所有者に通知を送る際にもこの冊子を同封し、空き家に関する問題や制度について周知します。
シルバー人材センターとの協定
「空き家管理に関する協定」に基づき、富谷市シルバー人材センターと連携し、空き家管理のサポートを行っています。
チラシを通じてこの協定を周知しています。
空き家予防の啓発
空き家にならないための方策や、空き家になった場合の維持管理とリスクについて、市の広報、エンディングノート、ホームページなどを通じて広く市民に啓発します。
町内会との連携
町内会や自治会が居住者不在の情報を最も詳細に把握しているため、町内会と連携して空き家の情報を収集します。
これにより地域の治安や景観の悪化を防ぐことができます。毎年行われる環境衛生推進員会議で町内会に情報提供を依頼しています。
税の特別措置の周知
相続した空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除について、市のホームページや広報で周知を図っています。
この特例措置は2029年12月31日まで延長されています。
時期を捉えた注意喚起
雑草や樹木の繁茂が主な問題であるため、繁茂しやすい時期を迎える前に適切な管理を呼びかけます(5月下旬から6月)。
相談体制の整備
富谷市は、空き家問題に関する相談体制を強化しています。
相談窓口の設置
一元化した窓口で空き家に関する情報提供や相談を受け付け、関係各課や関係機関への案内を行います。
これにより、空き家問題の解決に向けた具体的な対応が可能になります。
関係機関との連携
空き家問題は多岐にわたるため、庁内の関係各課や関係団体と連携して対応します。
空き家所有者の理解を深める
空き家の適切な管理の重要性や、空き家が周辺地域に及ぼす問題について広く周知し、地域全体で対処方策を検討・共有する取り組みを進めています。
空き家セミナーの開催
空き家の管理の重要性や、空き家が地域に与える影響について周知するため、住民や所有者向けにセミナーを開催し、専門家に相談できる機会を提供します。2021年度には初めて「富谷市空き家セミナー」を開催し、多くの所有者や市民が参加しました。
相続・登記に関する周知啓発
相続や登記が未了のために対応が進まない事例があるため、これらの手続きを市民に周知することが課題となっています。
不動産登記法の改正により、2024年4月1日から相続登記が義務化されます。
管理不全空き家に認定された際の税優遇解除の周知
法改正により、管理が不十分な物件が「管理不全空き家」と規定され、固定資産税の優遇措置が解除されます。
この点についても市民に周知啓発を行います。管理不全空き家の判断基準については、県からの指示に従って対応します。
これらの取り組みにより、富谷市は空き家問題の解決と地域の生活環境の改善を図っています。
空き家および除却した空き家跡地の活用促進に関する事項
活用促進について
空き家の中には、修繕すれば地域交流や地域活性化の拠点として利用できるものがあります。
空き家対策を進めるうえでは、空き家そのものだけでなく、除却後の跡地も地域資源として活用することが重要です。
これに関連して、法第15条では「市町村は、空き家および空き家跡地に関する情報を提供し、これらの活用のために必要な対策を講じるよう努める」と規定されています。
富谷市では、以下の取り組みによって空き家の活用を促進します。
空き家に関する情報提供
空き家を解体除去した後に跡地利用が可能な場合、その所有者の同意を得た上で、市と協力関係にある宅地建物取引業者に情報提供を行います。
また、市の関係部門にも情報を共有し、スムーズな跡地利用を促進します。
解体除去・跡地利用の促進
耐震基準を満たしていないなど、利用が見込めない空き家については、所有者が解体や除去を希望する場合があります。
この場合、解体手続きの方法や相談先の紹介を行い、所有者をサポートします。
利活用の推進
空き家やその跡地の利用方法を検討し、地域の公共施設や街かどカフェなど、地域交流や活性化のための場所として活用します。
空き家利活用促進事業
空き家の所有者から同意を得た情報を市内の宅地建物取引業者に提供し、不動産取引に結びつける「空き家利活用促進事業」を引き続き行います。
空き家増加抑制策・利活用施策・除却支援策
立地や管理状況の良好な空き家の多様な利活用を推進するため、空き家の増加を抑制する施策や利活用施策、除却に対する支援策を検討します。
これらの取り組みを通じて、富谷市は空き家問題を解決し、地域の生活環境を向上させていく方針です。
まとめ
富谷市の空き家や空き地の問題は、所有者の管理意識の低下や高齢化、相続の複雑化など、多岐にわたる課題があります。
適切な管理を行うためには、所有者の責任を自覚し、積極的に対策に取り組むことが求められます。
富谷市では、広報や啓発活動、相談体制の整備を通じて、所有者が適切な管理を行えるよう支援しています。
また、空き家の有効活用を進めるため、情報提供や利活用促進事業を実施し、地域の活力を高める取り組みを行っています。
空き家問題は地域全体の問題でもあり、所有者、市民、行政が協力して取り組むことが重要です。
この記事が、富谷市での空き家や空き地の管理や売却を検討している方々の参考になれば幸いです。
富谷市の空き家問題解決に向けて、当社も貢献したいと考えております。
お悩みの方はぜひお気軽にご相談ください。