相続した家や、長い間所有し続けた家のなかには、建物が老朽化し、大分古くなってしまっているものも少なくありません。
破損や傷がある家を所有しており、修復などをせずに売りたいと考えている方もいるでしょう。
また、遠方に住んでいる場合や、相続後にすぐに処分したい場合など、売却にかけられる時間が限られているケースもあるでしょう。
そのような場合、現状渡しで売却することで、スムーズな手続きが可能となります。
しかし、現状渡しにはメリットとデメリットがあり、売却後のトラブルを避けるためには、適切な対応が求められます。
特に、瑕疵(欠陥)に関する情報開示や、買主との契約内容の調整が重要です。
今回は、不動産売却を検討している方に向けて、現状渡しとはなにか、メリットやデメリットとあわせてポイントを解説していきます。
不動産売却の際の現状渡しとは
現状渡しとは、不動産を売却する際に、建物や土地の状態を修復・修繕せず、そのままの状態で買主へ引き渡す売却方法を指します。
現状渡しの適用範囲
現状渡しと言っても、どの部分を現況渡しとするのかを明確にする必要があります。例えば、以下のような項目があります。
- 建物の破損や設備の故障:屋根の損傷、壁のひび割れ、水回り設備の故障など。
- 敷地の状況:未整備の部分、庭の荒れ、駐車スペースの劣化など。
- 境界杭の有無:境界標の欠落や不明確な場合の対応。
- 越境物:隣地からの建物や樹木の越境、または自宅の設備が隣地へ越境しているケース。
告知義務の重要性
不動産売却では、原則として現況のまま売買されることが一般的ですが、買主に対しては必ず物件の状態を正確に告知する義務があります。
売主には「告知義務」があり、知っている情報はすべて開示しなければなりません。建物や土地に瑕疵(欠陥)があるにも関わらず告知せずに売却した場合、契約不適合責任に問われる可能性がありますので注意が必要です。
また、ケースによっては売主側が修復やリフォームを行った上で売却する選択肢もあります。売却戦略を立てる際には、修繕を施すかどうかを慎重に検討することが大切です。
契約内容の明確化
契約時には、買主とのトラブルを防ぐために、以下の点を明確にしておくことが推奨されます。
- 現状渡しの範囲(設備の故障、雨漏り、外壁のひび割れなど)
- 契約不適合責任の免責事項(どの瑕疵について責任を負わないのか)
- 境界問題の確認(必要なら測量を行い、明確にしておく)
- 建物内の残置物の処理(売主が撤去するか、買主が負担するか)
契約書に明確に記載することで、後々のトラブルを防ぐことができます。
不動産売却の現状渡しにおける買主と売主にとってのメリット
売主にとってのメリット
- 修理費用や手間がかからない:現状のまま売却できるため、大掛かりな修繕やリフォームの負担を回避できる。
- 売却までの時間が短縮できる:修理やリフォームを行う時間を省略できるため、早期売却が可能。
- 「売ったら終わり」にできる:売却後の責任を軽減できるため、契約不適合責任が免責されるケースが多い(特に不動産買取業者への売却時)。
- 相続した空き家の処分が容易:老朽化した物件でも、スムーズに売却しやすい。
- 売却コストを削減できる:通常、修繕やリフォームには多額の費用がかかるが、その負担を回避できる。
- 早期に資金化できる:修繕不要のため、売却手続きがスムーズに進みやすい。
買主にとってのメリット
- 販売価格が安い:現状渡しのため、修繕・リフォーム済みの物件よりも安価で購入できる。
- リフォームやカスタマイズが自由にできる:買主自身の好みに合わせたリフォームが可能。
- 土地の価値に着目しやすい:老朽化した建物を解体し、新築を建てるケースも多いため、土地を重視した購入がしやすい。
- 投資対象として魅力がある:現状渡し物件は、リフォーム後に転売や賃貸運用を行う投資家にとって魅力的な選択肢となる。
- 物件の状態を把握しやすい:新築物件と異なり、現状の状態を見極めた上で購入の判断ができる。
- 交渉の余地がある:売主が早期売却を希望している場合、価格交渉がしやすくなる。
不動産売却の現状渡しにおける買主と売主にとってのデメリット
売主にとってのデメリット
- 売却価格が下がりやすい:修繕費用を見越して買主が値引きを要求することが多い。
- 売却までに時間がかかる場合がある:特に個人の買主がリフォーム費用を懸念して購入をためらうケースも。
- 告知義務がある:売主が知っている瑕疵(建物の不具合、境界トラブルなど)はすべて告知する必要があり、契約不適合責任を負う可能性も。
- 売却活動の制限:物件の状態が悪いと、買主の選択肢が限られ、広告や内覧の反応が悪くなることがある。
- 住宅ローン審査の影響:築年数の古い物件や劣化が激しい物件は、買主が住宅ローンを利用できない可能性がある。
買主にとってのデメリット
- 修理費用がかかる:物件の状態によっては、大規模なリフォームが必要になる場合も。
- ゴミや残置物の撤去が必要:売主が撤去せずに売却した場合、買主が処理をしなければならない。
- 契約内容によっては追加費用が発生する:契約不適合責任が免責される場合、購入後に発見された問題はすべて買主の負担となる。
- 入居までに時間がかかる:リフォームが必要な場合、購入後すぐに住むことができないケースが多い。
- 将来的な売却リスク:築年数が古いまま購入すると、将来的に売却しにくくなる可能性がある。
現状渡しの不動産を売却する際のポイント
1. 物件の状態を詳細に確認し、正直に告知する
- 建物の傷み具合や設備の状態をチェックし、買主に伝える。
- たとえば、雨漏り、シロアリ被害、壁のひび割れ、給排水設備の故障などが該当します。
- これらを正しく買主に伝えないと、売却後にトラブルとなる可能性が高まります。
- 必要であれば専門家(不動産会社や建築士)に診断してもらう。
- 物件の状態を正しく把握するためには、不動産会社の査定や建築士による診断を活用すると安心です。
- 事前に住宅診断(ホームインスペクション)を受けることで、買主への信頼度が向上し、スムーズな売却につながります。
2. 売却価格の適正設定
- 一般的に、現状渡しの物件は相場よりも低くなるため、適正な価格設定が必要。
- 価格を高く設定しすぎると買い手がつかず、売却までに時間がかかることがある。
- 適正な価格を設定することで、より早く売却できる可能性が高まります。
- 近隣の類似物件の相場を調べる。
- 同じ地域で売りに出されている似た条件の物件を調べ、比較することが重要です。
- 不動産会社に査定を依頼することで、より適正な価格を把握できます。
3. 売却方法を検討する
- 仲介売却
- 時間がかかるが、相場に近い価格で売れる可能性がある。
- 物件の状態を理解したうえで購入を検討する個人の買主が対象。
- 市場価格に基づいた売却が可能だが、売却期間が長くなることも。
- 不動産買取
- 相場より安くなるが、早期売却が可能で契約不適合責任を免れるケースが多い。
- 不動産買取業者が購入するため、瑕疵担保責任を免除できる場合が多い。
- すぐに現金化したい場合や、手続きの簡略化を求める場合に適している。
4. 売却後のトラブルを防ぐために契約内容を明確に
- 「契約不適合責任を免責とする」条項を入れるかどうか。
- 買主との交渉次第では、契約書に「現状のままで引き渡す」旨を記載し、契約不適合責任を免除することが可能。
- ただし、隠れた瑕疵(売主が把握していたにも関わらず告知しなかった欠陥)については責任を問われることがあるため注意が必要。
- 境界問題や越境物の確認をし、必要なら測量を実施する。
- 境界が不明確な場合、買主とのトラブルになりやすいため、必要に応じて測量士に依頼し、境界を確定しておくことが重要。
- 特に古い物件や、隣地との境界が曖昧な場合は、売却前に問題を解決しておくことでスムーズな取引が可能。
5. 買主への印象を良くするための工夫
- 最低限の清掃を行い、見た目の印象を向上させる。
- 現状渡しであっても、内覧時の印象が良ければ買主の購入意欲が高まります。
- 壁や床の簡単な補修、不要な家具の撤去、庭の整備を行うことで、より売却しやすくなる。
- 不動産会社の選定も重要
- 売却実績が豊富で、現状渡しの取引経験がある不動産会社を選ぶ。
- 信頼できる担当者と相談しながら進めることで、より良い条件での売却が期待できる。
まとめ
現状渡しで不動産を売却する際には、事前の準備と適切な対応が重要です。
売主としては、
- 物件の状態を正確に把握し、買主に誠実に告知する。
- 適正な価格設定を行い、売却期間の見通しを立てる。
- 契約不適合責任の有無や、境界問題などのトラブルを未然に防ぐ。
- 売却方法の選択肢を理解し、自分に合った方法を選ぶ。
- 必要に応じて、最低限の清掃や簡単な修繕を行い、物件の魅力を向上させる。
買主としては、
- 購入後のリフォームや修繕費用を考慮し、資金計画を立てる。
- 物件の状態を事前に十分に確認し、契約内容を細かく確認する。
- 追加費用や修繕リスクを考慮し、慎重に判断する。
- 売主や不動産会社としっかりコミュニケーションをとり、情報を収集する。
このようなポイントを押さえることで、トラブルを避けながらスムーズに売却・購入を進めることができます。
弊社では、不動産売却に関するご相談を受け付けております。
現状渡しの売却をご検討の方は、お気軽にご相談ください。