認知症が原因で成年後見人制度を利用した空き家の活用や管理について解説

成年後見

認知症、知的障害、精神障害などの理由で、ひとりで決めることが心配な方々は、財産管理(不動産
や預貯金などの管理、遺産分割協議などの相続手続など)や身上保護(介護・福祉サービスの利用契
約や施設入所・入院の契約締結、履行状況の確認など)などの法律行為をひとりで行うのがむずかし
い場合があります。

また、自分に不利益な契約であることがよくわからないままに契約を結んでしまい、悪質商法の被害
にあうおそれもあります。

このような、ひとりで決めることに不安のある方々を法的に保護し、ご本人の意思を尊重した支援(
意思決定支援)を行い、共に考え、地域全体で明るい未来を築いていく。
それが成年後見制度です。
今回は、そんな成年後見制度を利用した空き家の活用や管理について解説した記事になります。

目次

認知症のお母様が所有するご実家が空き家になり、自分で管理が大変

相談者様のお悩み内容

宮城県にお住まいの40代後半男性からのご相談でした。
お母様が認知症で施設に入所されてから、地元のご実家が空き家になったため、はるばる車で片道数
時間掛けて実家である空き家の管理をしに1~2ケ月に1回、現地へ行って管理をしていました。

しかし、あるとき近隣の方から管理ができていないと何度も苦情をいただいてしまっていたそうです。

結局、管理が難しいため売却を一時は検討しましたが、所有者である母親が認知症になっていため、
その当時相談をした不動産会社からは「所有者が認知症だと売却はできない」と言われてしまったそ
うです。
そのため、疲弊しながらも仕方なく実家の管理を定期的に継続していました。そんな中、空き家の管
理サービスを頼みたいということで知り合い経由で当社へご相談いただきました。

空き家の管理サービスを安価で依頼できるという点を気に入っていただいて、実際に管理をスタート
することになりました。

空き家はきちんと管理されていた

ちなみにご実家の空き家を実際に見させていたただいた際は、相談者様が定期的に管理されていたた
め、概ね状態は良好でした。草は多少伸びていたものの、室内には特段問題はありませんでした。
ただ、近隣の方から苦情が来ていたように、庭の雑草が残っていて育っていたため、夏にかけて害虫
が発生してしまっており、月に1回1日かけて1人が手作業で草刈りをしようにも対応し切れない程の
広さと草木の量でした。


一見してすぐに、「この家には誰も住んでいない」ことが分かってしまうような状態でした。
このような空き家は、落書きをされたり、不審者や犯罪者が入り込んだりするリスクがあります。
また、不審火や放火の被害に遭うことも考えられ、火事となれば、近隣の住宅に与える被害も甚大な
ものとなります。
損害賠償の問題を含め、深刻な事態となる可能性は少なくありません。

2015年5月に全面施行された空家法では、「特定空家等」に認定された空き家につき、自治体か
らの勧告や命令に従わずに放置を続けると、罰則が適用されることがあります。
具体的には、次の状態に1つでも当てはまる場合は、自治体から「特定空家等」と認定されます。

■倒壊など著しく保安上危険となる恐れがある状態
■アスベスト飛散やゴミによる異臭の発生など、著しく衛生上有害となる恐れがある状態
■適切な管理がされていないことで著しく景観を損なっている状態
■その他、立木の枝の越境や棲みついた動物の糞尿などの影響によって、周辺の生活環境を乱してい
る状態

なお、現に著しく保安上危険または衛生上有害な状態にあるものだけでなく、そのような状態になる
ことが予見されるものも「特定空家等」に認定されます。
要は、様々なリスクがあるため予め対策することが重要です。
庭の雑草駆除や立木の剪定等を通して、近隣への迷惑が掛からないよう管理をさせていただきました。

成年後見人を立てて実家を売却

空き家管理をさせていただく中で、相談者様へ定期的に空き家の状態をご報告させていただく機会を
重ねること少しずつ信頼関係が強まってきました。

実はお母様の預金が少なくなってきており、実家である空き家を売却して老人ホームの費用などに活
用できないかとご相談いただきました。

空き家の売却には所有者本人の売却意思確認が必要となりますが、認知症を患った場合、売却は困難
になります。
そこで、当社が提携している司法書士の先生をご紹介し、息子である相談者様を成年後見人とする申
立てを家庭裁判所に対して行いました。

その上で、家庭裁判所に実家である空き家を売却するための許可をいただき、無事に売却することが
できました。


ちなみに成年後見人は、ご本人の意向を尊重し、安定した生活を送ることができるよう、ご本人の身
上に配慮する必要があります。
また、財産を適切に管理する義務を負っていますので、成年後見人がご本人の財産を不適切に管理し
た場合には、成年後見人等を解任されるほか、損害賠償請求を受けるなど民事責任を問われたり、業
務上横領などの罪で刑事責任を問われたりすることもあります。

そして、成年後見人の仕事は、ご本人が病気などから回復し判断能力を取り戻して裁判所の取り消し
の審判を受けない限り、ご本人が亡くなるまで続きます。申立てのきっかけとなった当初の目的(例
えば、保険金の受領や遺産分割など)を果たしたら終わりというものではありません。
なお、成年後見人を辞任するには、家庭裁判所の許可が必要となります。

母の生活費の確保ができた

相談者様の声です。
どんどん母の預金残高が日々減っていってしまい、どうしようかと不安でした。
実家の売却ができなければ母の施設費用などを払えなくなってしまう可能性がありました。
不動産屋に売れないと言われていたので、売却できないものだと思っていました。
改めて相談して良かったです。
これでしばらくは母の生活費が確保できて安心しました。
ありがとうございました。

空き家の管理だけでなく、不動産の売却までお手伝いさせていただきました。
成年後見はどのようなケースでも売却ができるわけではありません。
ただ、今回のケースのように生活資金が少なくなってきている場合は売却が可能なケースもあります。
売却ができ、当面の資金確保ができたのはもちろん、息子さんが管理で非常に苦労されていたため、
ご希望通り売却ができて良かったです。
所有者が認知症になってしまっていても、諦めずにご相談いただければと思います。
実務に強い専門家がいるのでお任せください。

代理で不動産売却も可能な「成年後見人制度」とは?

本人に代わり、手続きなどに一定の権限が認められるのが「成年後見人制度」です。
詳しい内容と権限の種類について確認しておきましょう。

認知症患者などを保護する制度

成年後見制度とは、認知症などによって能力が低下した場合、本人や本人の取引きを保護する制度で
す。制度を活用する場合は、本人の代理となる受任者となることで、取引きなどの権限を与えられま
す。
受任者となれば、本人の代わりに本人を保護する活動が認められ、売買や賃貸借契約、金銭の借り入
れるなどを通し、対象者をサポートできるのです。

また認知症などのため、能力が低下している期間に取引を行うと、不当に高額や商品を購入させられ
たり、不要な契約を結んでしまう可能性も少なくありません。
そのような事例から対象者を守り、身近な人物が保護する活動を行える仕組みが「成年後見制度」
のです。

「補助」「補佐」「後見」の3つの種類で異なる権限

「成年後見人」は、対象者(親御さん)の判断能力により3つの種類に分けられます。

権限が小さいほうから「補助」「補佐」「後見」の順序となり、代理で行うことができる権限が異なり
ますので制度活用をする前に把握しておきましょう。

「補助」

最も権限の小さい「補助」は、ご本人(親御さん)の判断能力が不十分な場合に対象となります。
具体的な権限の範囲は、家庭裁判所への申立てにより認められた範囲内に限定されますが、範囲内に
おいては契約などに対する、同意権・取消し権・代理権が認められます。

「補佐」

ご本人(親御さん)の判断能力が著しく不十分と認められた場合に対象となります。金銭の貸借や相
続の範囲にまで権限があり、「補助人」よりも広い範囲での同意権・取消し権・代理権が認められる
のが特徴です。

「後見」

最も権限の大きい「後見」は「成年後見人」を指し、ご本人(親御さん)が判断能力を欠いていると
認められる場合に対象となります。
財産管理全般について権限が認められる為、空き家などの不動産売却を行うことも可能になるのが
「後見」です。

「成年後見人」は、任意と法定の2種類

「成年後見人制度」とひとくちに言いますが、実は任意後見人制度と法定後見人制度の2種類が存在
します。
それぞれの制度の内容と、注意点を把握しておきましょう。

任意後見制度とは?

任意後見制度とは、ご本人(親御さん)の判断能力が保たれている期間に、あらかじめ選任しておい
た成年後見人を指します。

将来、認知症などの理由で判断能力が衰えた場合に備えて選任し、判断能力が衰えたのちに、基本的
な生活や財産等の管理に関して一定の代理権を与える制度です。

任意後見人と認められるためには、ご本人(親御さん)と選定した人物との間で、公正証書を発行す
ることが必要になります。
公正証書は公正役場で発行することが可能な書類を指し、元裁判官などが公証人としてチェックを行
うものです。
公正証書は後見人と認める際にも高い証明力を持ち、紛失の心配もないため、任意後見人制度を活用
する際などに利用される制度となっています。

任意後見人制度の資格と注意点とは?

任意後見契約となる為に必要な資格は定められておらず、ご本人(親御さん)にとって信頼できる人
物を選定するのが一般的です。
未成年や破産者ではない、親族や弁護士、司法書士を選任するケースが多く、ご本人(親御さん)が
希望する人物であれば、比較的自由度高く選任することが可能です。

任意後見人の注意点としては、ご本人(親御さん)の判断能力が保たれている期間内に活用しなけれ
ば認められません。
認知症などで判断能力や認知能力の低下を招く前に、必要な人物を選任し、公正証書などの書類発行
を行う必要があります。

法定後見人とは?

法定後見人制度とは、ご本人(親御さん)の生活を保護し支援する目的で、家庭裁判所に選任された
人物が代理で契約などを行うことができるようにする制度を指します。

ご本人(親御さん)に代わって売買や契約を行う「代理権」と「同意権」のほか、ご本人(親御さん)
がおこなった契約などに対する「取消権」も認められる制度なのです。

法定後見人となることで、本人に代わって高齢者施設や介護サービスの契約を結ぶこともでき、不動
産の売買に関する手続も行うことが可能です。
万が一親御さんが認知症を患った場合は、法定後見人となる為の手続きを進めると良いでしょう。

法定後見人の資格と注意点

法定後見人についても任意後見人と同様、必要となる資格はありません。任意後見人との違いとして
は、法定後見人認定の手続きのなかで、家庭裁判所が最も適切な人物を客観的に選任する点にありま
す。
また、法定後見人制度は御本人(親御さん)の判断能力が低下した場合に利用する制度ですので、任
意後見人との違いを把握したうえで活用する必要があるでしょう。

必要書類や時間、費用について

ここからは「成年後見人制度」を活用する場合の必要書類や、手続に掛かる時間と費用を整理してお
きます。
法定後見人制度を活用する場合は多くの書類も必要となりますので、事前にきちんと把握しておくと
便利です。

成年後見人申立て手続き

後見人制度を活用する場合は、申立て手続が必要となりますが、御本人(親御さん)の住宅物件や空
き家のある地域の家庭裁判所に申立てを行うのが一般的です。
後見人手続きの際は、裁判所に対して後見人を推薦することも可能ですがあくまで推薦のみとなって
おり、最終的には家庭裁判所が総合的に判断し決定を下します。

申立てが可能な人物は、本人、配偶者、4親等内の親族、市区町村長の範囲です。4親等内の親族を具
体的に整理すると、御本人(親御さん)からみた両親、祖父母、兄弟姉妹、子、孫、ひ孫、いとこ、
叔父、叔母、甥、姪などとなります。
後見人を推薦する際は、申立人自身を推薦することも可能ですので、あわせて覚えておくと良いでし
ょう。

最も注意が必要なのは、一度申立てを行うと、申請の取り下げが認められない点にあります。
例えば理想的な後見人が選ばれなかった場合も、申請を取り下げ手続き自体を無効にすることはでき
ません。
そのようなケースも想定し、事前に周囲との相談や検討を重ねておくことが大切です。

必要書類

申立てに必要な書類は、申請前に対象となる家庭裁判所などに確認することをお薦めします。
下記は、一般的に必要となる書類の一覧です。参考までにご確認ください。

  • 後見開始申立書
  • 申立付票(事の経緯を説明するもの)
  • 後見人等候補者身上書
  • 親族関係図
  • 本人の財産目録
  • 本人の収支予定表
  • 本人の健康診断書
  • 本人及び後見人等候補者の戸籍謄本
  • まだ成年後見等の登記がなされていないことの証明書

期間と費用について

申し立てから後見人認定までの期間は、約2~3ヶ月が一般的と言われており、本人との面接や医師へ
の確認、親族への意向確認を経て認定となります。

また、申し立ての費用は数千円から数万円程度が目安です。
これ以外に家庭裁判所の判断によって、ご本人の状態を医師などによって調査する「鑑定」を行う必要
がある場合もあり、鑑定に掛かる費用として別途10万円程度必要となる場合があります。

これらの手続を経て、家庭裁判所が処理を終えれば、法的に認められた後見人と定められます。

居住用と非居住用によって異なる不動産売却

不動産売却を代理で行う場合、「居住用」と「非居住用」によって必要な手続きも異なります。
ここでは「居住用」と「非居住用」の見分け方と、それぞれの場合の売却方法をお伝えしていきます。

「居住用」と「非居住用」の見分け方

「居住用」と「非居住用」の不動産の見分け方は、大まかに分けて本人の居住用物件であるか、そうで
ないかに分けられます。
しかし注意が必要なのは、「居住用」の場合は現在住んでいる住宅のみを指すのではなく、一時空き家
となるが入院中の御本人(親御さん)が戻って来る予定などがある場合も「居住用」となります。

このような「居住用」に分類される不動産であれば、売却に際して家庭裁判所の許可を得る必要があり
ます。

許可を得ずに売却した場合は契約自体が無効となりますので、必ず事前に確認し手続を行いましょう。
また、不動産売却以外にも賃貸借契約の締結や解除、ローンを組む場合にも許可が必要となります。

「居住用不動産」の売却方法

居住用不動産の売却方法は、家庭裁判所の許可を得たうえで手続を行うこととなります。
許可を得た場合は、専門機関や不動産を扱う業者などを通し、売却することが可能です。
居住用物件売却の際は、家庭裁判所の許可を得ることがポイントと言えます。
民法で定められた手続となりますので、必ず許可手続きを行いましょう。

ちなみに許可が必要な理由としては、御本人(親御さん)を保護する目的を軸としています。
生活において重要な住宅の取引ですので、施設などから帰ってきた場合にも住宅が確保されるよう、丁
寧に確認を行うのです。
また認知症などの場合は、住環境の変化も進行に大きな影響を与える場合もある為、第三者によるチェ
ックを行い、御本人(親御さん)を保護しています。

「非居住用物件」の売却方法

非居住用不動産の売却をする場合は、家庭裁判所の許可を得る必要はなく、一定の条件や手続きや条件
を満たせば、居住用に比べ比較的容易に売却が可能です。
御本人(親御さん)の住宅ではない為、過度に保護する必要性はないと考えられていますが、売却条件
を満たす必要があります。
この後お伝えする注意点の中でご紹介している、売却のポイントもあわせて確認しておくと安心です。

空き家を不動産売却する場合の注意点

「居住用物件」の無許可売却は認められない

繰り返しになりますが、居住用物件の無許可販売は認められていません。
無許可で販売すると契約自体が無効となりますので、取引に必要となる手間や労力も無駄なものになり
ます。
また、御本人(親御さん)の同意なしで販売した場合は、家庭裁判所より成年後見人に適していないと
判断され、解任に至ることもあるので注意が必要です。

「非居住用売却」の場合は、売却理由が必要

非居住用不動産を売却する為には、家庭裁判所の許可を得る必要はありませんが、売却理由を提示する
必要があります。
提示された売却理由が、後見人自身や親族の利益を目的とした場合は認められませんので注意が必要で
す。
特に不当な理由を提示した場合は、成年後見人の義務を果たしていないとみなされる場合もあります。

売却理由が正当なものである基準としては、御本人(親御さん)の生活費や施設利用に掛かる費用など、
御本人(親御さん)の生活や利益に直結するものであることが大切です。

当然、相場より不当に安く物件を売却したりすることも認められません。成年後見人の役割を意識しなが
ら、不動産売却を進めることが大切だと言えます。

まとめ

認知症を理由としてご両親の介護や施設費用負担が増加したり、自宅などの不動産売却がスムーズにでき
なかったりと多くの問題が増えており、社会的なテーマの一つとなっていると言えます。
当事者になってから、一体どうしたらいいんだろうと途方に暮れている方もいらっしゃるでしょう。
困ったらまずは専門家にご相談ください。
弊社でも具体的な事例があり、各分野の専門家を揃えていることからもお役に立てると思います。

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